じゃずにゅうもん
キース・ジャレット
「スタンダーズ ライブ！／星影の
ステラ」
うなり声は演奏の一部
ビーバップの巨匠バド・パウエルが、ピアノより大きい声でうなっているのを聞いた時には驚いたものです。
しかし、ジャズピアノを演奏している時の私も、気がつくと、やはりうなっていました。
どうやら、うなることで自分の内にあるメロディーを引き出し、ピアノの音ひとつひとつに、息づかいを入れているようです。
うなることが演奏の一部になっている人もいます。
ピアニスト、キース・ジャレットです。
キース・ジャレットは１９４５年、アメリカ・ペンシルバニア州に生まれました。
６歳から作曲を始め、７歳の年にはリサイタルを開いたほどの才能の持ち主です。
１６歳でジャズに興味を持ち、６５年最初のアルバムを作ります。
７０年にマイルス・デイビスのバンドに参加して、世界にその名が知れた彼は、続いてソロ・ピアノのアルバム「フェイシング・ユー」を製作します。
以後、クラシックとジャズ両面の才能を開花させ、幻想的なソロピアノを聞かせるようになります。
ヨーロピアンの血（父はドイツ系、母はハンガリー系）が、そうさせるのかもしれません。
クラシック曲のアルバムも数枚作っています。
１９８３年には、ベースにゲーリー・ピーコック、ドラムスにジャック・ディジョネットを迎えて、今世紀最高とも言えるピアノトリオ「スタンダーズ」を結成しました。
ありふれた楽器編成で、ありふれた曲（スタンダード）を演奏したのですが、その内容は聞き手の想像を超えたものでした。
キースは立ったまま、大きく体を前後に揺り動かしながらピアノを弾き、うなり声は叫び声となり、異様ともとれる演奏風景ではありますが、そのサウンドの芸術性は高く、感動のあまり失神した人が出たと言われています。
（「スタンダーズ・ライブ’８５」「スタンダーズ・ライブⅡ」ビデオ＝ビデオアーツ・ジャパン、レーザーディスク＝ビデオアーツ・ミュージック）
紙一枚隔てたところは狂気とも感じられるキースの演奏に触れれば、ジャズからクラシックまでこなす彼の音楽的感性の深さを分かっていただけると確信しています。
芸術生活社刊「自己表現」１９９5年１月号掲載
