じゃずにゅうもん
ザ・オスカー・ピーターソン
トリオ＋ザ・シンガーズ・アンリミテッド
「イン・テューン」
“ア・カペラ”と呼ばれるコーラスがあります。
これは、イタリア語で、無伴奏の声だけのコーラスのことです。
１９５０年代には、リズム・アンド・ブルースのスタイルとして流行したドゥー・ワップにも使われました。
最近、日本でも、山下達郎、スターダスト・レビューなどがア・カペラに取り組み、素晴らしいハーモニーを聞かせてくれるようになっています。
しかし、ポピュラー音楽の本場のアメリカでは古くから超一流のア・カペラのコーラスがあったようです。
以前に紹介したマンハッタン・トランスファー、フォア・フレッシュメン、レア・シルクなどもその一つですが、ア・カペラの頂点といえば、シンガーズ・アンリミテッドではないでしょうか。
シンガーズ・アンリミテッドは１９６７年、大変人気のあったコーラスグループ、ハイ・ローズの一員だったジーン・ピュアリングがシカゴで結成した、男性３人女性１人のコーラスグループです。
彼らは、巧みなアレンジ、洗練されたボーカル・テクニック、電子技術の発展を背景にした多重録音を駆使して、それまでにない透明感を出したコーラスを実現しました。
このグループは、テレビやラジオのコマーシャルの仕事をしたことはあっても、ステージでの活動を行わず、デビュー当初はメンバーの発表も行われなかったので、多少不気味に思われたりする時期もあったようです。
シンガーズ・アンリミテッドのレコードデビューは、ジャズピアノ界の帝王、オスカー・ピーターソンとの出会いによります。
彼らの新しい試みを実践するべく作られた「フール・オン・ザ・ヒル」のデモンストレーションテープをを聞いたピーターソンは、彼らをレコード会社に紹介するとともに、自らも競演アルバムを作りました。
それが、１９７１年に旧西ドイツで録音された「イン・テューン」なのです。
この２つのグループが醸し出すハーモニーには、この世のものとは思えない美しさがあります。
中でも「いそしぎ」は、絶品と呼んでもいいと思います。
さて、シンガーズ・アンリミテッドは「イン・テューン」のアルバムと同時期に「ア・カペラ」と題するアルバムも発売し、以来、４枚のア・カペラのアルバムを含む１５枚ものアルバムを発表しますが、１９８０年に最後のアルバムをリリースしてから、その活動はストップしたままです。
果たして解散してしまったのか？
いつか近い将来、シンガーズ・アンリミテッドの新しいアルバムがリリースされ、ご紹介できる日を楽しみにしています。
芸術生活社刊「自己表現」１９９4年3月号掲載
