ケニー・ドリュー 「ダーク・ビューティー」
意外にもJAZZミュージシャンは、JAZZがそれほど好きでない 人が多いのです。 私も例にもれず、その一人なのですが、それはJAZZの世代と いうよりロックの世代だからかもしれません。 さて、十年ほど前までは、JAZZ喫茶と呼ばれる店がたくさん ありました。 地下の小さな部屋はコンクリートの壁で照明は暗く、大きなス ピーカーからは、JAZZがガンガン流れていました。 お客さんはコーヒー一杯で二時間も三時間も粘り、JAZZを聞い ているのです。 私も先輩のミュージシャンによく連れて行ってもらいました。 しかし正直言ってJAZZを聞くのが苦痛で苦痛で・・・。 そんなとき、かかった一枚のアルバムが私をとりこにしたのです。 そのアルバムこそ「ダーク・ビューティー」。 ケニー・ドリュー トリオの、このアルバムは、今まで聞いた ことのあるJAZZのレコードとは、まったく違う音だったのです。 非常に攻撃的なピアノ、スピーディーにドライブするベース、 そしてロック用にチューニングされたドラム・・・それは、明ら かにロックそのものだったのです。 １９２８年８月、ニューヨークにケニー・ドリューは生まれま した。 ５歳で祖母からピアノを習ったケニーは、８歳のときにはすでに コンサートを開くぐらいの神童ぶりを発揮しています。 それほどの才能を持ちながら、人種差別のためになかなか花が開 かず苦しんだようすです。 以前にマル・ウォルドロンのアルバムに参加していたジャッキー ・マクリーンのサイドメンとしての録音も多く、ほかにデクスタ ー・ゴードン、ジョニー・グリフィンなどとの録音もあって、 ケニーの参加したアルバムは１５０枚にも上りますが、正直言っ てありきたりのピアニストでした。 ところが、１９７４年に吹き込まれたこのアルバムは、JAZZに あるまじき行為を行いながら、立派にJAZZとして認められる素晴 らしいアルバムでした。 現在日本で最も人気のあるピアニストの一人となったケニー・ ドリューの演奏は、JAZZファンはもちろんのこと、ロックファン にも支持されています。 現に私の友人でも、JAZZはまったく知らないというのに、ケニー のアルバムは持っているのです。 どうぞ、一度「ダーク・ビューティー（黒光り）」という題名を かみしめつつ聴いてみてください。 圧倒的な攻撃力が、あなたをきっととりこにするでしょう。 ケニーの息子、ケニー・ドリューJr.も、最近のJAZZシーンで 活躍している様子です。
芸術生活社刊「自己表現」１９９４年１月号掲載