じゃずにゅうもん
サラ・ヴォーン
「ブラジリアン・ロマンス」
サラ・ヴォーンは、１９２４年３月２７日、アメリカ・ニューヨークに近い、ニュージャージー州ニューアークに生まれました。
父親は大工、母親は洗濯女という貧しい家庭でしたが、父はギターを弾き、母はバプテスト教会で聖歌を歌うという音楽一家でしたので、サラは音楽に満たされて育ちました。
７歳からピアノとオルガンを習ったサラは、教会でオルガンを弾き歌うようになり、やがて１９歳の時、ニューヨーク・ハーレムのアポロ劇場でアマチュアのど自慢大会（現在もプロへの登竜門として毎週土曜の夜オールナイトで行われている）で、ジャズの名曲「ボディー・アンド・ソウル」を歌い優勝。偶然その場にいたビリー・エクスタインに認められることとなります。
それからのサラは、アール・ハインズ楽団やビリー・エクスタイン楽団のピアニスト兼ヴォーカリストとして活躍。１９４５年にはソロ・シンガーとしてデビュー・・・と、トントン拍子で登っていきました。
しかし、そのころ、コンサートの最中に客からトマトを投げつけられるという事件がありました。
真っ白なドレスがトマトで汚されるのを見て、サラは歌えなくなってしまいます。
それは、サラが黒人であり、美しくないということに対する差別以外の何ものでもなかったからです。
サラは気落ちしてしまいますが、整形手術をし、ジャズ・シンガーとして復帰することになります。
一つの大きな壁を乗り越えた彼女は、ますます素晴らしい歌を歌うようになり、１９４９年、アルバム「サラ・ヴォーン イン・ハイ・ファイ」ではマイルス・デイビスをバックに起用。１９８２年「ガーシュイン・ライブ」というアルバムでは、ついにグラミー賞を手にすることになりました。
そんな彼女が、昔から思いを寄せていた場所、それがブラジルでした。
その思いを込めて第一作「アイ・ラブ・ブラジル」（１９７７年）、第二作「コパカバーナ」（１９７９年）を発表し、その集大成とも言えるアルバム「ブラジリアン・ロマンス」（１９８９年）に到達します。
最近、ミュージシャンの間でブラジルを旅行することがはやっているのですが、私も、ブラジルは天国のようなところだと聞いています。
このアルバムに耳をすましていただければ、ブラジルの透き通った青い空が、心に広がってくることでしょう。
参考＞ちなみに、N.Y.アポロシアターのアマチュアナイトは、現在では水曜の夜におこなわれているそうです。（2000年6月現在）
芸術生活社刊「自己表現」１９９３年９月号掲載
